要介護者に対する補償
1 将来介護費用
後遺障害のため将来に亘って介護が必要となる場合には、将来介護費用が損害として認められます。
⑴ 施設介護の場合
施設に入所している場合には、現在の施設費用を基に将来介護費用を算出することが可能です。
⑵ 在宅介護を予定している場合
在宅介護の場合は、様々な検討が必要となってきます。
実際に在宅介護をされている場合には、現状を基に将来介護費用の算定を行うことになります。現在、近親者による介護が行われている場合でも、将来、職業介護人による介護に移行する蓋然性が認められる場合には、そのことを証明し、職業介護人による介護費用の請求を行います。
実務的によく問題となるのは、現在は施設介護(又は入院中)であるが、近い将来、在宅介護に移行する予定という場合です。このような場合に在宅介護を前提とした将来介護費用の請求をするためには、次のような点を証明する必要があります。
⑶ 在宅介護を前提とした介護費用を請求するために必要な証明
① 在宅介護が可能であること
この点で特に重要なのは、医学的な観点から、在宅介護が可能ということです。これは医師の診断書等によって証明します。
② 在宅介護に移行する蓋然性があること
在宅介護は可能だとしても、将来、実際に在宅介護を行うだろうという蓋然性がなければ在宅介護を前提とした介護費用の請求は認められません。
・ 施設退所時期(一定の年数が経過すると退所が必要な施設に入所しているなど)
・ 施設の性格(施設介護から在宅介護への移行を目的とした施設であるなど)
・ 在宅介護に向けた準備状況(介護用品の準備、家屋の改造など)
・ ご家族の意向・状況(在宅介護を行う意思があり、それが客観的にも可能な家庭環境であることなど)
といった事情から、近い将来在宅介護に移行する蓋然性を証明していく必要があります。
⑷ 介護計画を立てる際の注意点
将来の介護費用は、どのような介護計画を立案するかによって変わってきます。介護は長年続いていくわけですから、肉体的・精神的負担を考え、職業介護人を上手く組み合わせていくこと等により、近親者にとって無理のない介護計画を立案することが大切です。
また、介護に当たる方も年齢を重ねていくことになりますので、その辺りも考慮に入れ、将来介護費の算定を行う必要があります。
⑸ 介護保険利用の際の注意点
介護保険を利用すると介護保険適用部分のサービスに関する自己負担額は1割(又は2割)となりますが、将来介護費用の算定に当たり、この介護保険の利用をどうするのかという問題が生じます。
① 今後も介護保険を利用する前提で、自己負担額である1割(又は2割)部分だけを加害者に請求する
② 今後は介護保険を利用しない前提で、10割全額を加害者に請求する
②が一般的な選択肢となります。なぜかというと、介護保険制度が今後も維持されるのか否か、維持されるとしても自己負担額が今の1割(又は2割)が維持されるのかが不透明であるため、それであれば、そもそも介護保険を利用しない前提で請求しておく方が安心だというわけです。ただ、介護保険を使わない前提での賠償金を受領すると、介護保険法21条2項により、今後は介護保険の利用ができなくなるので、注意が必要です。
2 将来の介護用品
介護用ベッド、車椅子、介護用車両等が代表的なところですが、それ以外にも細々としたものが必要になります。
こうした費用については、介護計画立案の際に相談し、どのようなものが必要になるのかの見通しを立てておく必要があります。そして、耐用年数を考慮し、将来の買替えに要する必要の算定も行います。非常に細かい作業にはなりますが、とても大切なことです。
3 家屋改造費
⑴ 改造費
重度の後遺障害が残存し、従前暮らしていた住居での生活が困難となる場合には、家屋を改造する費用が損害として認められます。もちろん、必要かつ相当な範囲内という限定が付きますので、その点に関する主張立証を行っていく必要はあります。
・工事個所ごとの費用を明示した見積書・明細書
・改造工事を施す前の状況が明らかとなる図面・写真
・改装後の状況が明らかとなる図面・写真
・改造の必要性に関する医師の意見書
・改造の必要性・工事費用の相当性に関する鑑定書
・工事を必要とする事情を記載した陳述書
・工事費用を支払った際の領収書
⑵ 新築費用
個々の事情によっては、家屋の改造ではなく、新たに土地を購入し、新築工事を行う場合もあります。よくあるのは、従前暮らしていた住居が賃貸物件で、家屋改造ができないような場合 です。
そのような場合には、新築費用の一部分について損害として認められる可能性があります。特に転居費用や買替諸費用(仲介手数料や不動産登記費用など)に関しては、交通事故がなければ全く必要のない費用 であるため、認められやすいといえます。また、介護のための特別仕様部分がある場合には、その特別仕様部分にかかった費用も損害として認められやすいといえます。
これに対し、土地の代金、家屋の新築費用(特別仕様部分を除く)に関しては、難しい問題が存在します。なぜなら、費用を支出する対価として土地や建物という財産の所有権を取得することになるため、全く損害は生じていないと見る余地があり、なかなか認められづらい部分となっています。しかしながら、交通事故がなければ土地を購入したり家を建てたりする必要はなかったわけです。また、新築建物とはいっても、新築費用と同じ価格で転売できるわけではありませんから、そこには損害を観念し得ると思います。
したがって、新築の必要性・相当性を立証することにより、新築費用の一部を損害として請求していく余地はあると考えています。
4 成年後見人に関する費用
⑴ 高次脳機能障害や遷延性意識障害(いわゆる植物状態)のため、被害者の方ご自身で意思決定ができなくなった場合には、それを代理する者として、成年後見人の選任が必要となってきます。
民事の損害賠償請求をするためにも、成年後見人が必要となります。
⑵ 成年後見人の選任は家庭裁判所に対する申立てに基づいて家庭裁判所が選任をするのですが、申立て等にかかる費用は、交通事故に伴う損害として補償の対象となります。
また、家庭裁判所から選任された成年後見人は、原則として、被後見人(被害者の方)が亡くなるまでの間、ずっと成年後見人の業務を継続することとなりますので、その間の報酬も発生します。そうした成年後見人に対する報酬に関しても、交通事故に伴う損害として補償の対象となる可能性があります。